「うーん……」
穹は頭を抱えていた。彼の目の前に置かれているのはコースター、ピアス、時計。仕掛けがあるのは一体どれなのか、すべてなのか、どれでもないのか。まさか壊すわけにもいかないし、かといってそのままにするわけにもいかない。疑わしきは捨てるなり、処理をするなりしなくては。
純粋な好意か、張り巡らせた策略か、どちらの可能性も捨てきれない男を恨めしく思った。
本日、アベンチュリンよりプレゼントされたものは三つ。
一つ目はやや厚みのある木製のコースター。
二つ目は柔らかな色合いの石が揺れるピアス。
三つ目はブランドものだという時計。
非常に高級そうなものが混じっている上に、合計三つのプレゼント。さすがに多いと言って返そうとすると、あからさまにしょんぼりされてしまった。それを見て慌ててすべて受け取ってしまったのも彼の策略のひとつだろうか。だとしたらもう何も信じられない。けれどどこか切り離せず、信じてみたくなってしまうのはどういうわけなのだろう。惚れた弱みか、いやまさか。
素直にプレゼントを受け取りたい気持ちもあるが、彼には以前トークンにある機能を仕掛けていたことがある。今回も何か仕掛けているのではないかと思っても仕方のないことだろう。異常がないか確認する必要がある。
まずはコースター。木製とはいえ厚みは結構なものがある。中に何かを仕掛けていてもおかしくはない。裏返すと注意書きがあった。
「えーと、木が生きているようにコースターは生きています、定期的に使ってあげないと拗ねて爆発します……爆発物をコースターにできるか!」
いずれ爆発するものに仕掛けはしないだろう、多分。そう結論づけて、穹はコースターをテーブルに端に置いた。あとで使ってあげよう。
次はピアス。手に取ってじっくり観察する。強いて言うならば金具のあたりがあやしいが、こんなところに仕掛けられるものなのだろうか。技術力はどれほどのものなのだろう、と考えているうちに、渡されたときのことを思い出す。
『君の瞳に似た石なんだ。よければ飾ってあげようか』
そう言われてさりげなく耳を触られたことを思い出し、なんだか感触まで思い出してむずかゆくなる。
「考えるの、終わり!」
耐えきれずに頭をぶんぶんと振る。感触を忘れるまで続けて、次である。
さて最後、ある意味一番疑わしい時計である。すっきりと品の良いデザインだが、仕掛けようと思えば仕掛けられるだろう。
「とりあえずどこのブランドのどういうのか調べてみるか……」
スマホで検索してみると、贈られたものは予約殺到の高級ブランドの限定モデルだということがわかった。値段を見て穹は宇宙を感じた。価値を考えても、入手するまでの苦労を考えても、贈ってきた相手のことを思っても、捨てるに捨てられない。
「結局どれも疑わしいけど、結局どれなのかわからない……」
再び穹は頭を抱える。悩みに悩んで、はたと気がつく。
いや、いいのか。
疑わしいままでいればいい。
捨てなくていい。避けなくていい。
いっそのこと、こちらの声が、届いてしまえばいいのだ。
穹はそう決めると、プレゼントに向けて口を開く。
「アベンチュリン」
もしかしたら届かないのかもしれないけれど、別に届いても、届かなくてもいい。これは穹の独り言だ。
「今日はありがとう。楽しかった。プレゼントもどれも嬉しかった、本当に……。また、お前に会えたらいいって思ってる。お前も、一緒の気持ちだったら、もっと嬉しいな」
アベンチュリン。もう一度彼の名前を呼んで、彼はひっそりと、偽らざる思いを込めて、冗談めかしてつぶやいた。
「好きだよ……なんてな?」
その瞬間、穹のスマホの通知音が鳴った。メッセージの送り主を見て、なんだ、届いたんだ、と穹は笑いをこぼした。
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