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傾向:オエミス、フィガオズ

  • 塗り替えられるなら甘い方がいい(オエミス)

     思えばろくなキスをしていない。昼下がりの魔法舎にて、北の魔法使いのお茶会は始まった。参加者はミスラ、今日は気が向いたオーエン、今日も逃げ遅れたブラッドリーである。三人は紅茶を淹れてから気づいた。茶菓子がないのである。今日に限って誰も菓子を…

  • 思いを込めて呼んでごらん(オエミス)

    「ずいぶんと眠そうだね。気が紛れる紅茶があるんだけど、どう?」 眠い目をこすっていると、オーエンの方からお茶会に誘ってきた。さらに手ずから紅茶を淹れるとまで言ってきた。にこにこと上機嫌な彼を見て、珍しいこともあるものだとミスラは思った。 こ…

  • 満足するまで受け取って(オエミス)

     いつから始まった行為だったか、そんなものは忘れてしまった。 確かなことは、この行為によって得られる快楽が予想以上に心地よいということ。眠気は訪れないものの、情事後の気だるい余韻に浸るのは悪くなかった。 彼もこの行為を言葉ほどは嫌がっていな…

  • 甘くなったなんてどうかしている(オエミス)

     本当にどうかしている。 何度こんな夜を過ごしている。 寄り添い合って、重ね合わせて、吐き出して果てて、疲れ切って、ふたりして荒い息をもらして。なぜこんなことを何度も繰り返している。 そもそもなぜ彼はおとなしく押さえつけられているのだろう。…

  • ひとりじめ(オエミス)

     その瞬間、単なる紙切れに過ぎないそれは、自分が得るべきものだと思ったのだ。 何のつもりかわからないが、今日の彼はずいぶんと食い下がってくる。その手に握られている紙切れは一体なんだ。呪符か。魔法陣でも書かれているのか。いずれにせよ今日は彼に…

  • 今のところはあなたで(オエミス)

     チレッタは言った。産むなら強い魔法使いとの子がいいと。世界最強の魔法使いの名前を挙げて、もう少しおしゃべりで優しくてロマンチックであれば、とも。強さとそれらを秤にかけたらどちらが重かったのか。結果として強さというのは軽かったのだろう。彼女…

  • このわからずや(オエミス)

    「もう! フィガロ先生!」 食堂に響いたのはミチルの声だ。 朝寝坊をするなんて、と叱られていてもフィガロの顔はゆるみきっていた。北の大魔法使いが年少者、それも二十も満たない者に叱られている姿などここでしか見られないだろう。怒りもせず、ごめん…

  • そんな顔しないで(オエミス)

     ただでさえ暑くて気分が悪いというのに。「ねえ、賢者様。あいつのあの顔、やめさせてきてよ」 オーエンが指差した方向には窓。その向こうには木陰に座っているミスラの姿が見える。彼の視線は青空へと向けられているようだ。「見てて苛々する、陰気くさい…

  • ときに光さす方へ(オエミス)

    「おやすみなさい、ミスラ」 そう言い残して賢者が部屋を後にした直後、オーエンは姿を現した。 部屋の主は三日月の形の枕を抱いて、穏やかな寝息を立てている。不眠の傷を厄災から与えられたミスラだが、賢者の手を借りると傷は一時的に和らぐのか、眠るこ…

  • 幸せチョコレート(オエミス)

     さて、どうしようか。昨夜の可愛らしいお客様ふたりにあげた分で最後だと思っていたが、もうひと組分残っていた。自分と彼とで食べ合ってもいいが、込められた思いや願いを考えると迷ってしまう。 とりあえずそれを棚にしまおうと手に取った瞬間、バーの扉…

  • あくまで気まぐれで(オエミス)

     ずきずきとした痛みに苛まれながら目を覚ます。すでに朝、起き上がれば痛みはさらに増した気がした。そっとシュガーを口に放り込み、かみ砕いていくといくらか痛みは引いたような気がした。気がしただけで調子は戻らない。 風邪か、疲れか、いずれにせよ今…

  • 入り混じる声の中に(オエミス)

     好きな人と話せたら嬉しいのに そんなひとのためのこの薬 花に振りかければあら不思議 好きな人の声で花が喋り出す 気になっているあの人の声で 思いを寄せるあの人の声で ここにいないあの人の声で さあ、たくさんたくさんおしゃべりしよう どんな…

  • 結果オーライ(オエミス)

    「ミースラちゃん!」「我らとお茶しましょっ!」「嫌です」「もー、ミスラちゃんってばー」「いつまでもそうやって拗ねてないで、そろそろ我らとお茶しましょー」 なおも嫌だとそっぽを向くミスラに双子が手を焼いていると、談話室のドアが開かれた。姿を見…

  • 親愛なる年少者へ(オエミス)

     それは隠し味になりませんと必死に止めたんですよ。 賢者は後に語った。 今日も今日とてミスラは安眠の場所を探していた。そんなときに見かけたのはルチルがミチルとリケに小包みを手渡している場面だった。いったい何をしているのやら。またどこかへと向…

  • そしてやっぱり眠れない(オエミス)

    「今日の俺は頑張ったと思うんですよ」「うん」「殺したくなるのを我慢できましたし」「そうだね」「ちゃんと最後はブラッドリーに譲りましたし」「う、ん……?」「だというのに賢者様は今夜西の国に泊りだそうです」「はあ……」「今夜こそ眠らせてくれるは…

  • 扉(オエミス)

     今日も今日とて北の国の魔法使いは任務であった。依頼者のもとに到着し、通された部屋で少々歓待を受けた後、賢者と双子は席を立った。「じゃあ、依頼の詳しい内容を聞いてきますね」「よいか、くれぐれも飽きたとか言って出ていくでないぞ」「なんて言って…

  • 甘いのひとつ作れない(オエミス)

     お誕生日おめでとうと言われても、虚ろな胸の中には染み込みも響きもしない。何のためにその言葉が存在するのだろう。オーエンはプリンをスプーンでつつきながら物思いにふけっていた。 食堂にいると誰もかれもが声をかけてくる。それがあまりに面倒で、オ…

  • ××とは呼べない(オエミス)※現パロ

    「……寒い」 季節は秋から冬へ。年の瀬が近づいていくほどに寒さも増していく。晴れ間はあったものの、吹きつける風はかなり冷えていた。油断して薄着にしたことを悔やむ。手に吐息を吹きかけてすり合わせつつ、オーエンは帰り道を急いでいた。夏であればこ…

  • そして今夜も眠れない(オエミス)

     良い夢は終われば虚しい。悪い夢は終わっても苦しい。だから夢見はいつだって悪い。夢を見た時点で起きた後は嫌な気持ちが残るのだから。胸につかえたものを吐き出すようにため息をついてみるが、気分はよくなりそうにない。あきらめてオーエンは身体を起こ…

  • もしも忘れてなかったら(オエミス)※現パロ

     街を歩くオーエンの耳に届くのはクリスマスソング。今年もこの季節がやって来たかとようやく気付く。雪がなかなか降らないこの街にいると、冬が来たという実感がいまいちわかない。風は冷たく日は差さず、寒さが増していくものの、なんとなく秋の延長という…

  • ホットミルクが欲しかった(オエミス)

     多くの魔法使いは眠った頃だろうか。ひっそりと、いつもよりも静かな夜の魔法舎をオーエンはひとり歩く。特に用事があるわけではない。単にまだ寝る気にはならないだけだ。このまま誰にも会わないのならそれでいい。ひとりでいる方が気が楽だ。そういうとい…

  • どうぞいい夢を(オエミス)

     いい初夢を見れますように、おやすみなさい。 そんな言葉と共に、賢者から渡されたホットミルクを飲みながら、オーエンは自室で物思いにふけっていた。今日のホットミルクも甘い。何を入れたのやら。 年が明けたところで何も変わりはない。千年以上の時間…

  • スノードロップ(オエミス)

     甘い匂いがする。とはいえ菓子のような甘さではない。どろどろとせず、澄んだその匂いはどこかで嗅いだことがあるような気がした。どこだったっけ。いつだったっけ。ああ、そうだ。やがて思い出すのは白い花を指差す彼女の姿。その花は春を訪れを告げる花な…

  • ワスレナグサの欲望(オエミス)

     どうか傷つけたことを覚えていて。 ふたりが訪れたときには、空色の花があたり一面埋めつくすように咲いていたのだが、今やすっかり焼け野原となってしまっていた。双子に怒られても僕は知らないからね、というオーエンの言葉に、仕方ないじゃないですか、…

  • 放り投げたカレンデュラ(オエミス)

     いつのことだったか、南の国の兄弟とミスラが土いじりをしているのを見かけたことがある。もちろん声はかけなかったが、少しばかり彼らの様子を見ていた。めんどくさそうにするミスラをなだめる兄弟。球根を食べようとするミスラを止める兄弟。 オーエンか…

  • 止むまで、止むまで(フィガオズ)※現パロ

     今夜はあいにくの雨。今は小雨だが夜中からだんだんと激しくなってくるらしい。そんな天気でもフィガロの機嫌は良好。傘を差し、鼻歌を歌いながら帰り道を歩いていた。明日は久々に休日。今夜は多少はしゃいでもいい夜だ。 何をしようか。ゆっくり一人酒を…