ともに果てて行き着く幸福なまどろみ。
けれど実を結ばぬ行為に何の意味があるのだろう。
夢境で食べたものは健康や体重に影響はないという。腹は満たされることなく、体重が増えることもなく、健康が脅かされることもない。純粋に食べることや味を楽しむことができるのだ。
カロリーゼロとついている百層サンデーを食べたのち、穹はさらにアイスを三つほど食べる。甘い、酸っぱい、ちょっと苦い、でもやっぱり甘い。それぞれのアイスの味わいを確かめながら、穹は彼を待っていた。彼は黄金の刻で散策中らしい。レストランの前で待っていて、というメッセージを受け取ったのが一システム時間前。そろそろ来る時間だろうか。そう思って顔を上げたとき、こちらに駆けてくる待ち人の姿を発見する。
「アベンチュリン!」
「ごめん、遅くなったね」
「休暇中に呼んでごめん」
「いや、そろそろひとりで過ごすのにも飽きてきたところだよ。声をかけてくれてありがとう」
そう言ってアベンチュリンと穹は歩き出す。
「待ってる間、何を食べたんだい」
「百層サンデーとアイスと、あとピカ白ぶどうソーダも飲んだ。なんか感覚としてはだいぶ冷えてる感じがする」
「それはそうだろうね……」
「もう、なんか寒い。早く温めてくれないか」
「……焦らない、焦らない。部屋に着いて、片付けて、準備ができたらね」
そんな会話をしながら、ふたりが向かうのは現実の方のホテル・レバリーのアベンチュリンの部屋だ。着いて、片付けて、準備して、そのあとは、と想像しただけで、ずくりと身体は期待で疼いた。
久々の彼との逢瀬だ。
もうすっかり、胎が空いている。
焦らないと言ったのはどの口だ。部屋に着くなり、アベンチュリンの熱烈な口付けを受けた穹は思う。けれど責めるつもりはない。この方がこちらとしても都合がいい。長い長いキスの末に、ようやく顔を離したアベンチュリンが我に返ったようにつぶやいた。
「……ごめん」
「……何が?」
「焦らないつもりだったのに」
「仕方ないだろ。最後に逢ったのは結構前なんだから。それでこの後も逢えるかどうか、わからないんだろ」
「ずっと一緒にいれたら、よかったんだけどね」
「それじゃあ、寂しさを感じなくなるだろ。愛が冷める」
「……経験者は語る?」
「……最初から最後までお前だけだよ。不安な顔しないで、おしゃべりはそこまでにして、続けて。多少酷くしても構わないから」
そう返して穹はアベンチュリンに抱きついて口づけ、さらなる続きをねだる。その誘いを受けて、アベンチュリンの手は穹の腿に触れた。ベッドがいい、と一瞬思ったけれど、胎が早く満たせと疼くから、何も言わないで目を閉じて彼を受け入れた。
たとえ、どんなに愛し愛されたところでこの胎は満たされない。そんなのは知っている。自己満足なのだとわかっている。
けれど、それでも少しでも共に幸福なまどろみの中にいたくて、いつかひとつになれる日が来るかもしれないと馬鹿げた妄想を抱いて、実を結ばぬ無駄な行為に、何度となく挑むのだ。
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