お好みはストレート(アベ穹)

 今日はキスの日らしいよ。
 そんなことを言いながら、アベンチュリンは慣れた手つきでトークンを弾いてみせた。
「というわけで、ゲームをしよう、星核くん」
「嫌だ」
「おっと……つれないね」
 アベンチュリンはソファに腰を下ろし、隣に座る穹の肩を抱いた。穹はアベンチュリンに素直に身を預けつつも、顔は背けている。
「おやおや、何を拗ねているんだい? いつもならゲームの誘いには乗ってくれるのに」
 もう一度トークンをはじいて誘いかけるが、穹は誘いに乗らないようだ。
「……どうせお前が勝つんだろう? 結果が見えてるなら勝負になんかならない」
「そうかな? 案外やってみないと何が勝ちかはわからないと思うけどね」
 その言葉に穹がちらりと視線を向けた。
「何を賭けるつもりなんだ?」
「言ったろう? キスの日だって。それにふさわしいものを賭けようじゃないか」
 穹は目を瞬かせ、彼の言わんとしていることに気づき、ため息をついた。
「つまり……お互いの唇ってわけか」
「さすがマイフレンド。ご名答。さあ、トークンの裏表を当てるゲームをしよう。君が勝ったら僕の唇を奪ってくれていい。僕が勝ったら君のを奪わせてほしい。それで、どうするんだい?」
「やらない」
「今日は一段と強情だね、星核くん」
「……強情なのはお前の方だろ」
 穹はそう言ってアベンチュリンの方に顔を向けた。そして勢いよくアベンチュリンの顔を手で引き寄せた。互いの吐息が唇に触れるくらいの距離になり、アベンチュリンは目を丸くした。
「星核くん」
「何でもかんでもゲームにしないと気が済まないのか? それとも臆病なだけか? 言っとくけど、俺は、ストレートな誘い方が好きだぞ」
 目を閉じた穹はそのままアベンチュリンにキスをして、すぐさま顔も手も離した。ぽかんとした表情のアベンチュリンに対して、穹は真剣な表情だ。その頬はずいぶんと赤いけれど。
「こ、こうやって、小細工なしにキスしてこい! その……恋人なんだからな!」

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