抱えきれないほどの愛をあげる。
「よいしょぉー、はい、アベンチュリン油断したー」
「穹くん! 君! 初心者に! 優しくしようという! 気は! ないんだね!?」
ガチャガチャカチャカチャとボタンを連打する音が響く。ホテルの一室のソファに腰かけているのはふたり。アベンチュリンと穹である。しっかりランチを済ませてから予約していた部屋に戻り、ふたりは対戦ゲームで遊んでいた。
最初、慣れないゲームにアベンチュリンが気が乗らない素振りを見せていると、穹から優しくレクチャーするからという提案がなされた。その優しさに甘えようとしたら、容赦なく必殺技を叩き込まれ、窮地に追い込まれ、アベンチュリンは焦った。話が違うではないか。
「うーん、なんかこのゲーム叩きのめされて慣れてくゲームだからさ。それでいてアベンチュリンって要領いいだろ? いいかなって」
「よくないかな!」
事実、困惑しながらなんとか対応しているうちに、アベンチュリンのプレイスキルも上がってきている。ひゅー、今のかわすなんてやるーぅ、と穹が片手をコントローラーから離し、アベンチュリンの頭を撫でてやる。
「えらいぞー、アベンチュリン」
「君……そういうのは片手間でやるんじゃなくて……」
「はい、全弾照射。俺の勝ち」
「ずるくないかな!?」
あはは、と笑う穹の頬を今度はアベンチュリンがつねってやると、いひゃい、と気の抜けた声がした。そしてアベンチュリンが穹の両頬をこねくるようにむにむにとしてやっていれば、穹もやり返す。やがてふたりして噴き出して声を上げて笑い合う。
実に仲睦まじい。
このままならおともだちのままでも差し支えないだろう。
(……このまま、なら)
ふとアベンチュリンの笑みに陰が落ちる。そのことに穹もすぐさま気がつき、首を傾げた。
「アベンチュリン? どうした」
「なんでもないよ。ただ、こうして君とふざけ合って、笑い合って……」
やがて口づけし合って恋をして、触れ合って愛し合うことができたら。
「……幸せだなあ、と思っただけだよ」
「……本当に?」
「うん、本当だよ」
探るような琥珀の瞳からアベンチュリンはにこりと笑って追及を逃れようとする。このおともだちの関係で満足できなくなったのはいつからだろう。確かな親愛もあるのに、恋情が入り込んで、やがて欲求が劣情に成り下がったのはいつからだろう。
(こんな汚らしい感情を君に抱くなんて、どうかしてる)
「アベンチュリン。本当に、そう思ってるか?」
穹の手がアベンチュリンの腕に触れた。そしてアベンチュリンの手を掴み、穹は自身の胸の辺りに手を押しつけ、触れさせた。
「穹くん……!?」
熱い。
感触はそれしかわからない。
咄嗟に手を離そうとするが、穹がそれを許さない。
「だめ、もっと触れて」
熱い。
あつい。
火傷してしまいそうだ。
「……触れてみたかっただろ、俺の星核(むね)」
それとも胎がいいか?
そう言って穹によってアベンチュリンの手は動かされる。胸から肋骨へ、腹へ、そして下腹部に行こうとする前に、アベンチュリンは手を振り解いた。
「穹くん!」
「違ったのか? ごまかせてると思うなよ、アベンチュリン。お前、俺に触れたい、触れたくて仕方ない、そういう目をしてたぞ」
鈍い俺にもわかるくらい。
その言葉にアベンチュリンは視線を泳がせた。
「……僕は」
「俺は」
逃げそうなアベンチュリンをとらえて、穹は彼を抱きしめる。互いの熱も鼓動も伝わる距離で、穹は口を開いた。
「おともだちの先を、知りたい。この先を知ってるんだろう? 教えてくれ、アベンチュリン」
「……君は、知らなくてもいいよ」
「嫌だ。知りたいんだ。全部」
「君は、応えられないんじゃないかな」
「そんなのわからないだろ」
そう言って唇を尖らせた穹はアベンチュリンから離れ、勢いよくベッドにひとり飛び込んだ。そしてぼんぼんとベッドを叩いて、アベンチュリンをその隣に来るよう誘いかける。
「俺は結構度量ある男だ。自分で言うのもなんだけど、包容力もある。よくわかんないけどあれこれ難しい感情も受け止められるぞ」
「……本当かな」
アベンチュリンはため息とともにベッドに腰を下ろした。そして手を伸ばし、寝転がっている穹の頬を撫でた。
「単に、好きだなっていう優しい感情じゃないよ」
そして指先で穹の唇に触れながらアベンチュリンは問う。
「情愛とも欲望とも言えるこの感情を受け止める覚悟はあるかい?」
「当然」
穹が起き上がり、再びアベンチュリンを抱きしめた。
「お前は、その情愛とも欲望とも言える感情を、俺の前に出す覚悟はあるか?」
「……君が、僕を」
アベンチュリンの腕が穹の背に回る。
「君が、僕を、笑わないでくれるなら」
笑わないで、嫌わないでくれるのなら、その腕では抱えきれないほどの愛を君にあげる。
だから、同じだけの愛を、僕にください。
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