くらうちちぐらさんは、「朝の庭」で登場人物が「寝る」、「コーラ」という単語を使ったお話を考えて下さい。
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真夏に比べて暑さも日差しもずいぶんと和らいだ。吹く風も涼しく、あちらこちらで葉が落ちているのを見るようになり、秋の到来を感じさせた。とはいえ暑くないわけではない。流れる汗は頬を伝う。庭に咲いたコスモスに水をやりながら、穹はタオルで汗を拭った。
鮮やかなピンクの花は時折吹く風に揺れている。他にも色はあるが、ピンクが一番コスモスらしいかもしれない。もちろん感じ方に個人差はあるだろうけれど。
水やりを終えた穹が部屋に戻ろうと振り返ると、家主である金髪の青年が縁側に立っているのが見えた。
「アベンチュリン、起きたのか」
「今起きたところだよ。おはよう、穹くん」
大あくびをこぼしつつアベンチュリンは縁側に腰を下ろした。着ている寝巻きは崩れているが本人は気にしたふうもない。穹も気にすることはなく、アベンチュリンの隣に座る。再び穹が汗を拭っていれば、アベンチュリンがペットボトルを一本差し出した。
「水分補給して」
「ありがと」
差し出されたスポーツドリンクを飲んでいると、みいみいと鳴きながら三匹の猫がふたりのもとにやってきた。アベンチュリンの飼い猫である。三匹は人懐っこく穹に擦り寄り、彼の膝に座ろうと乗っかってくる。毎度のことながら本当に人懐っこい。猫たちを順番に撫でてやりつつ、穹は隣でうつらうつらとしはじめているアベンチュリンに尋ねる。
「今日は休みなのか?」
「う、ん……そうだよ。君が来る日だからね……」
頑張って仕事を終わらせたんだよ、とあくびまじりに彼は言う。ほめてと甘えたように頭を差し出されたのでわしゃわしゃと撫でてやる。
「よーしよし、よーく頑張ったな、えらいぞアベンチュリン」
アベンチュリンは満足そうに笑んでしばらくされるがままだったが、不意に穹に抱きついてきた。
「わっ」
穹の体勢が崩れ、ふたりして縁側に寝転がることとなる。猫たちも慌てて離れていく。アベンチュリン、と穹が咎めればなだめるように背中を叩いてくる。
「ごめんごめん、眠くてつい、ね」
そんなことを言っているが、アベンチュリンの瞳や声音からはからかいの色が見てとれた。唇をとがらせた穹は彼から離れようと手足を動かすが、アベンチュリンはこれもまた眠気によって穹を離さない。
「……よく振ったコーラでも浴びたら目を覚ますか?」
「べとべとになるから嫌だなあ……他に目を覚ます方法はある?」
「おとぎ話だとキスで目を覚ますのが定番だよな。ま、やらないけど」
「え? やってくれないのかい?」
宝石のごとき美しい瞳でねだられてもだめなものはだめ。穹は呆れたようにため息をつくだけだ。
「俺を困らせた上にキスまで要求? わがままがすぎるぞ、アベンチュリン」
「さっきはほめてくれたのに。キスはいけないのかい? 誰より愛しい恋人からのお願いでも?」
「甘やかしすぎた弊害がきてる……。だからそんな目をしてもだめ。やらないぞ」
退避していた猫たちが戻ってきて、アベンチュリンを咎めるかのように鳴き始めた。ほら、この子たちもだめって言ってる、と穹は言う。
四対一。分が悪い。
「わかった。君からのキスは諦めよう」
「よしよし」
「だから僕からキスをするよ」
「へ?」
ぽかんとした穹の唇をすかさず奪い、舌を絡めて丹念に愛でてやれば、穹の頬や耳が赤く色づく。やがて互いの唇が離れると、穹は抗議するようにアベンチュリンの背中をばしんと叩いた。
「お、まえ、本当に、こういうとこが……」
「こういうところが?」
「……好きだけどさあ!」
ばしんばしんと二度三度叩かれても、アベンチュリンは穹を離さない。穹もアベンチュリンから離れようとはしない。やがて再び唇を重ねたふたりを見た猫たちは、付き合っていられないとばかりに彼らから離れ、コスモスが咲く庭へと降りていった。
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