アベンチュリンから贈られたパジャマは着心地がよかった。日中遊び倒したふたりは宿に入り、色違いのパジャマを着て同じベッドに寝転がっていた。しばらく談笑しているうちに眠気も訪れつつある。
「いい夢が見れそうだな」
穹は隣にいるアベンチュリンに笑いかけるが、なぜか彼は苦笑いだ。首を傾げてからまもなく思い出す。
「ごめん、なんかいい夢見れてないんだよな、お前。無神経なこと言って悪かった」
「いや、謝ることじゃないよ。君がいい夢を見れるならそれでいい。これでもずいぶんと悪夢を見る回数は減ってきているんだ」
「治療のおかげだな」
「それもあるけど」
そこで言葉を止めて、アベンチュリンは穹の手を握る。きょとんと目を丸くした穹を見て、アベンチュリンはようやく柔らかな笑みを浮かべた。
「こうして君といると、悪夢が遠ざかっていく気がするよ」
「そうなのか? やっぱりあれか、星核のおかげか?」
「それもあるのかもしれないけど……単純に君のおかげで……いや、この辺にしておこうか」
アベンチュリンはまたしても苦笑いだ。握られた手は離れていき、彼の熱が遠ざかる。はあ、と大きなため息とともにアベンチュリンは穹に言う。
「君、鈍感だとか罪な人とかって言われたことがないかい?」
「ないけど?」
「ないんだ……」
「かわいいと言われたことはあるかな。俺は美少女だから」
「そうかもね」
「そうだぞ」
ふふんと得意げな穹に、今度はアベンチュリンは彼の頬に手を伸ばした。じっと見つめられ、穹は首を傾げる。しばしふたりで見つめ合ったのちに、穹の頬を撫でながらアベンチュリンはささやく。
「君はかわいいね」
「当たり前だ」
穹はまたしても得意げだった。アベンチュリンはまたまた苦笑いを浮かべて、穹の頬から手を離した。そして再び大きなため息をつく。
「どうしたんだ?」
「君、鈍感とか無敵とか言われたことがないかい?」
「ないけど」
「ないんだ……」
「俺を口説こうとするやつはなかなかいないからな。アベンチュリンくらいじゃないか?」
その言葉に今度はアベンチュリンが目を丸くする。目を瞬かせたのち、恨めしげな視線と声を穹に向けた。
「……気づいていたのかい?」
「言っただろ、俺、鈍感とは言われたことがないんだ。さすがにわかるぞ」
それで? と穹は琥珀の瞳をきらめかせる。
「これで終わりか? まだあるんだろ? とっておきのを出してくれ」
アベンチュリンはしばらく視線をさまよわせるが、やがて観念したようもぞもぞと動き、そっと控えめに穹を抱きしめた。そして恐る恐るといったようにささやいた。
「……好きだよ」
それを聞いた穹はアベンチュリンを強く抱きしめ返し、はずんだ声で応えた。
「俺も好き!」
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