アベンチュリンは朝が弱い。というよりは、夢見が悪くて十分な睡眠が取れないことが原因だで寝起きが悪い。起きてもうとうととしてしまい、二度寝突入前に同居人に布団から引きずり出されることもしばしばある。
一方、その同居人である穹は。
「おはよう!! アベンチュリン!! 休日の朝だぞ!! 今日は出かけるぞ!! 海とかいいよな!! さあ!! 起きよう!!」
早朝からこのテンションである。彼は寝つきも寝起きもすこぶる良い、まさしく健康優良児であった。児とつけるには少々大きすぎるが、彼のためにあるほどにその言葉がしっくりくる。
穹はベッドに腰を下ろし、起きろと布団の上から叩いてくるのでアベンチュリンは観念して目を開けた。
「おはようアベンチュリン!」
「……おはようマイフレンド。今何時だい?」
「五時!」
「五時かあ……」
「弁当持って行きたいから準備してくる! あと朝ごはんも!」
「弁当……いいね。どんなものを作るんだい?」
「焼きそばとフランクフルト!」
「縁日かな? まあ、君が楽しそうだから止める気はないけど。朝ごはんもそれかな?」
「いや、朝ごはんはトーストにウインナー、あとスクランブルエッグもつけとく」
「そこはいつものなんだね」
「今日はチーズとはちみつも用意しておきやしたぜえ、旦那ァ……?」
「いいね! 朝から背徳の味だ」
「どうだ? そろそろ目が覚めてきたか?」
正直なところまだ眠気は身体に残っている。身体を起こそうとしてみるが、寝転がっている方が心地よいのには変わらない。
「うーん、まだまだ眠いかな」
「そうか、ちゅーでもするか?」
「そうだね、頼むよ」
了解、と言って穹は顔をアベンチュリンに近づけた。彼が目を閉じて、ふたりの唇が重なる前に、アベンチュリンは穹を抱き寄せた。
「うわっ!」
「ハハハッ!」
悪戯が成功したとばかりにアベンチュリンは笑う。穹は離せと動くがアベンチュリンは離そうとしない。ぎゅうぎゅうとさらに抱きしめる力を強くするだけだ。
「アベンチュリン!」
「五時スタートは早いよ。久々に僕と一日過ごすのが楽しみだからってね」
「楽しみだからこそだ。だらだらしてたらお前との時間が減ってくだけじゃないか」
離れるのを諦め、穹はアベンチュリンともどもベッドにごろりと寝転がった。アベンチュリンは不満げな彼をなだめるように額や頬に口づけを落としていく。
「いつもふたりとも朝が早いからね。ゆっくりと二度寝するのもいいんじゃないかな」
「よくない。寝るのはひとりでもできるだろ。俺はお前と話したり笑ったりしたいんだから」
「それはこうやって寝転がりながらでもできないかな?」
「どうせなら青空の下だとか海辺とかで笑いたい。部屋の中で終わらせるのはもったいないって俺は思う」
お前には綺麗なものを見せたいんだよ、と穹は言う。
「朝焼けとか青空、日が差す方を歩いて、夜には星空を見上げて、この世界は綺麗なんだって思って欲しくて、お前には世界を好きになって欲しいというか……ん? 何言ってるんだろうな、俺」
「いや……嬉しいな、そう思ってくれるのは」
彼と出会い、同居して、時間をともに過ごすようになってから世界は鮮やかに色づいていった。アベンチュリンが再び穹を抱きしめれば、彼の方からも抱きしめ返してくれる。
「君が僕のことを好きなんだってことがわかったよ。大切に思われている実感がわいてくる」
「茶化すなよ。まあ好きだってことは否定しないけど。で? 出かけるか? 出かけるぞ! 七時には起きるからな!」
「はいはい」
アベンチュリンは寝かしつけるように穹の背中を叩いてやる。寝かしつけようとするな、とすかさず言われてアベンチュリンはまた笑い声を上げた。
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