まほやく

親愛なる年少者へ(オエミス)

 それは隠し味になりませんと必死に止めたんですよ。 賢者は後に語った。 今日も今日とてミスラは安眠の場所を探していた。そんなときに見かけたのはルチルがミチルとリケに小包みを手渡している場面だった。いったい何をしているのやら。またどこかへと向…

結果オーライ(オエミス)

「ミースラちゃん!」「我らとお茶しましょっ!」「嫌です」「もー、ミスラちゃんってばー」「いつまでもそうやって拗ねてないで、そろそろ我らとお茶しましょー」 なおも嫌だとそっぽを向くミスラに双子が手を焼いていると、談話室のドアが開かれた。姿を見…

入り混じる声の中に(オエミス)

 好きな人と話せたら嬉しいのに そんなひとのためのこの薬 花に振りかければあら不思議 好きな人の声で花が喋り出す 気になっているあの人の声で 思いを寄せるあの人の声で ここにいないあの人の声で さあ、たくさんたくさんおしゃべりしよう どんな…

あくまで気まぐれで(オエミス)

 ずきずきとした痛みに苛まれながら目を覚ます。すでに朝、起き上がれば痛みはさらに増した気がした。そっとシュガーを口に放り込み、かみ砕いていくといくらか痛みは引いたような気がした。気がしただけで調子は戻らない。 風邪か、疲れか、いずれにせよ今…

幸せチョコレート(オエミス)

 さて、どうしようか。昨夜の可愛らしいお客様ふたりにあげた分で最後だと思っていたが、もうひと組分残っていた。自分と彼とで食べ合ってもいいが、込められた思いや願いを考えると迷ってしまう。 とりあえずそれを棚にしまおうと手に取った瞬間、バーの扉…

ときに光さす方へ(オエミス)

「おやすみなさい、ミスラ」 そう言い残して賢者が部屋を後にした直後、オーエンは姿を現した。 部屋の主は三日月の形の枕を抱いて、穏やかな寝息を立てている。不眠の傷を厄災から与えられたミスラだが、賢者の手を借りると傷は一時的に和らぐのか、眠るこ…

そんな顔しないで(オエミス)

 ただでさえ暑くて気分が悪いというのに。「ねえ、賢者様。あいつのあの顔、やめさせてきてよ」 オーエンが指差した方向には窓。その向こうには木陰に座っているミスラの姿が見える。彼の視線は青空へと向けられているようだ。「見てて苛々する、陰気くさい…

このわからずや(オエミス)

「もう! フィガロ先生!」 食堂に響いたのはミチルの声だ。 朝寝坊をするなんて、と叱られていてもフィガロの顔はゆるみきっていた。北の大魔法使いが年少者、それも二十も満たない者に叱られている姿などここでしか見られないだろう。怒りもせず、ごめん…

今のところはあなたで(オエミス)

 チレッタは言った。産むなら強い魔法使いとの子がいいと。世界最強の魔法使いの名前を挙げて、もう少しおしゃべりで優しくてロマンチックであれば、とも。強さとそれらを秤にかけたらどちらが重かったのか。結果として強さというのは軽かったのだろう。彼女…

ひとりじめ(オエミス)

 その瞬間、単なる紙切れに過ぎないそれは、自分が得るべきものだと思ったのだ。 何のつもりかわからないが、今日の彼はずいぶんと食い下がってくる。その手に握られている紙切れは一体なんだ。呪符か。魔法陣でも書かれているのか。いずれにせよ今日は彼に…

甘くなったなんてどうかしている(オエミス)

 本当にどうかしている。 何度こんな夜を過ごしている。 寄り添い合って、重ね合わせて、吐き出して果てて、疲れ切って、ふたりして荒い息をもらして。なぜこんなことを何度も繰り返している。 そもそもなぜ彼はおとなしく押さえつけられているのだろう。…

満足するまで受け取って(オエミス)

 いつから始まった行為だったか、そんなものは忘れてしまった。 確かなことは、この行為によって得られる快楽が予想以上に心地よいということ。眠気は訪れないものの、情事後の気だるい余韻に浸るのは悪くなかった。 彼もこの行為を言葉ほどは嫌がっていな…